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 ■vol.12 「洗う」という言葉の意味と歴史的背景

(キーワード:洗浄、清潔感、多様性)


私たちが日々行なっている「洗う」という行為は、きれいになるため、清潔に保つため、汚れを落とすためなど、色々な目的があります。また私たちは身体や洋服、食器などをはじめ様々なものを洗っています。この「洗う」ことを様々な角度から掘り下げ、その言葉の多様性ついて考えてみると、洗うからには落とさないといけない汚れがあり、その汚れに多様性があるがゆえに「洗う」という言葉が多様性を持ってくるといいます1

その汚れには単純な泥汚れ、油汚れなどの不純物を指す汚れと、穢れという精神性の汚れが含まれ、日本の場合「洗う」ことで「清める」目的も含まれているとの指摘がありました2。確かに神社に行ったら手や口を洗い、清めてからお参りします。日本語では「心が洗われる」という表現もあります。この清めるという意味の「洗う」は日本では身近であり、私たちの生活の中に存在する大切な概念でもあります。

一方、現在では当たり前になっている「衛生」を保つための「洗う」という概念は比較的最近生まれたものだそうです。19世紀後半の細菌の発見により、体や衣服、生活環境を清潔にする目的で「衛生」が重視されるようになったとの記述があります3。日本に衛生概念が入ってきたのは明治時代からだそうです。

それまで「庶民は灰汁などを石鹸の代わりに用いていたが、文明開化の1873年(明治6年)には民間最初の石鹸工場・堤石鹸製造所が創業を開始」し、このことから石鹸が日本中に普及し、「美洗粉」というシャンプーまで登場したそうです4。それから大正・昭和時代になると水道が普及し、家電が登場、高度経済成長も生活の近代化を後押しし、人々のライフスタイルが変化していきます5。昔のように「洗う」ことが重労働でなくなり、それと共に人々の清潔感が変化していきます。「汚れたら洗う」から「着たら洗う」に変化していった洗濯も、私たちのライフスタイルの変化から生まれてきたようです。

婚活支援サービスによって20〜39歳の男女360名を対象に最近実施した「結婚相手に求める条件」に関するアンケート調査では「清潔感がある」(男性46.9%女性62.5%)が条件1位にあげられていました。不潔だと感じるのはどういう人かという問いに対する答えとして、口臭や汗臭さなどの臭いが上位にあげられ、洋服からの生乾きの臭いも男性では25%、女性では58.3%の人が気にしていました。自由回答の中には「次の日同じ服を着る」のが不潔、という声も男女ともに見られたそうです。逆に、どんな清潔な人がいいかという問いには、「下着を毎日取り替える(男性42.2%、女性75.6%)」、「毎日お風呂に入って髪や体を洗う(男性42.8%、女性72.8%)」がトップにあげられていました6

また18〜24歳の女性で「積極的におしゃれをしたい」という意識は2011年には5割だったのに対し、2015年では3割以下まで低下した一方、おしゃれや身だしなみで気をつけていることは「清潔感」であるとした男女が大幅に増えたという調査結果もありました7

海外の人にとっては日本人の生活環境は非常に清潔だと受け取られることが多くあります8。新型コロナウイルス対策として「洗う」という行為が「消毒」という意味合いも持ち始めたように思います。私たちの「洗う」は単に汚れを落とすだけでなく、今では自分自身を「清潔」に保つために発展してきていますが、その「清潔」という概念もまた時代と共に変遷し、多様性を含んでいることがわかります。その結果、私たちの「洗う」目的も多様化してきています。

ただ「洗う」ことで水や電気をはじめ様々な地球の資源を使っています。汚れを落とす以上の意味を持つ「洗う」という行為をどこまで探求するのか再考する必要があるのではないでしょうか。心地よい状態を保ちながらも、環境とのバランスの取れた「洗う」を引き続き模索していきたいと思います。