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 ■vol.20 勢いを増すサステナブルファッション

(キーワード:衣服、ライフサイクル、ファション、サステナビリティ)


日本で廃棄される衣類の量は1年間で推定100万トンだそうで、そのうち7割はごみとして焼却処理されると報告されています1。そのような大量廃棄が問題視され、また深刻化する地球温暖化の影響も後押しし、ファッション業界ではサステナビリティに配慮したブランドや製品が出てきています。エシカルファッション、循環経済(Circular Economy)などの言葉もよく聞くようになりました。

ボストンコンサルティンググループ、Sustainable Apparel Coalition (SAC)とGlobal Fashion Agendaがとりまとめた「The Pulse of Fashion」というレポートは、各ブランドがもたらす環境負荷を様々な角度から検証しています。そのレポートでは ファッションセクターのサステナビリティに関する取り組みにおける管理、目標設定、イニシアチブの実施状況などを評価したパルススコアという指標を設けています。そのパルススコアが2018年には38だったのに対し、2019年には42に上昇したと報告しています。一方でその成長速度は減少していると指摘し、ファッションセクターが政府と共に必要な政策を整備したり、投資家がサステナブルな取り組みに対して投資したりするなど、ファッションセクターを超えた様々な取り組みを加速していく必要があるとしています。

2019年に開催されたG7サミットでは、グッチやバレンシアガを擁するケリンググループの会長兼CEOであるフランソワ=アンリ・ピノーが「ファッション協定」というものを発表しています。この協定では「地球温暖化の阻止」、「生物多様性」、「海洋保護」の3つの分野において実践的な目標を協力して達成することを表明しています2。「地球温暖化の阻止」では2100年までの間に気温上昇を1.5度未満に抑えるため、2050年までに温室効果ガス排出量ゼロを達成するアクションプランの作戦と実践を、「生物多様性」では自然の生態系を復元して種の保護を目指し、「海洋保護」では使い捨てプラスチック使用の段階的な廃止などを目標として掲げています3。アルマーニ、エルメス、プラダ、シャネル、バーバリーなどのラグジュアリーブランドからアディダスやナイキといったスポーツブランド、H&Mやザラといったファストファッションなど、合計36社250ブランドが参加しています4。2020年8月には小泉進次郎環境大臣が日本のファッション企業との意見交換会で「ファッション協定」に日本企業が参加するよう呼びかけています。さらに「環境省も今後は音頭を取って“日本版ファッション協定”やサステナブルファッションアワードの創設などにも取り組んでいきたい」とも発言しています5

実際にZARAはリサイクルやアップサイクル、オーガニックに関連した商品に「ジョインライフ」のタグをつけ、そのような商品を増やしていく方針を表明しています6。またビスコースは2023年までに全てをオーガニックまたはリサイクル素材に、コットンやリネン、ポリエステルは2025年までにサステナブル素材またはリサイクル素材を使用、また埋め立て廃棄物をゼロにすることを目標に掲げています7。また染料やブリーチによる環境汚染が指摘されていたデニム業界でも様々な取り組みがなされており、デニムブランドのAGは工場用水の再利用に取り組み、2019年には自社工場で完全循環のウォーターフィルタレーションシステムを構築しています8。またオランダのG-STAR RAWではオーガニックコットンを使用し、水を使用して加工していたダメージ加工にレーザーやオゾン技術を活用するなど新しい技術を取り入れているそうです9。さらには、海岸地域で海に流入する前に回収されたプラスチック廃棄物をアップサイクルした素材でランニングシューズまで生産されています10

イギリスのブランド、マーガレット・ハウエルのカジュアルラインであるMHLではB品と見なされていた汚れやほつれのあるアイテムの素材を再生し、商品化・販売しています。様々な工程を経て作られる製品には織りキズや染めムラ、汚れが付着することがあるそうで、そのような商品を販売することはできないので、それを再生させるプロジェクト「OVERDYE PRODUCT」を立ち上げています11

また日本の若者に人気のあるブランド、イネド等を展開するフランドルは全ブランドの2020年春夏の製品から、サステナビリティに関する取り組みを説明したタグを取り入れているそうです12。エコフレンドリー、リサイクル、オーガニックをオリジナルのマークで表現し、該当するサステナブルな取り組みにチェックマークを入れて、消費者にわかりやすく説明する方法を導入しています。
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(参照:Daily MORE Website


アメリカの「サステナブル消費調査」でもZ世代(1995年以降に生まれた世代)の62%がサステナブルなブランドの商品を購入したいと回答しています13。さらに54%のZ世代はサステナブルな商品に1割以上多く支払っても良いと答えています14。このように著しく進化しているファッション業界の取り組みにおいて、その動きを牽引していくのは若者なのかもしれません。そしてそういう動きが一人一人の消費行動をよりサステナブルなものにしていく後押しになるのだろうと思います。おしゃれをすることを諦めないで、ファッションを楽しみながら環境負荷も同時に減らしていける方法を業界が様々な技術を駆使して模索しています。大量消費、大量廃棄は既に受け入れられなくなってきており、地球の資源を大切に使う生産・消費方法が企業のみならず各個人の行動においても、今後さらに求められていくのだろうと思います。また忘れてはならないのが衣類は洗濯するという行為がついてくることです。持続可能な生産や消費に関する取り組みが進む一方で、その衣類を洗濯する時の環境負荷も科学的に検証する必要があると思います。衣類について議論する上で洗濯について忘れてはいけないと思います。