header_img

 ■vol.21 サステナブルな繊維の開発が加速化

(キーワード:衣服、繊維開発、ファッション、サステナビリティ)


ファッション業界ではビジネスモデルがサステナブルであることが不可欠になってきています。国連貿易開発会議(UNCTAD)によるとファッション業界は930億立方メートルの水を使用(500万人のニーズを満たすのに十分な水の量と同じ)、約50万トンのマイクロファイバーを海洋に放出しており、世界で第2位の汚染産業であるとしています1。炭素排出量においても航空業界と海運業界の合計排出量より多いと報告しています2。このような環境負荷を減らすための様々な取り組みが業界で始まっています。中でもサステナブルな素材の開発が最近加速しているようです。

サステナブルな素材として植物を原料にしている化学繊維では再生セルロース繊維というものがあります。植物から採取した繊維素(セルロース)を使って糸を作っているものではキュプラ、リヨセル、レーヨンなどが代表的です。キュプラという素材では綿花を採取した後に残るコットンリンターという本来は廃棄される未利用繊維を使ったものが開発されています。

また、合成繊維でも、微生物の働きによって水や二酸化炭素に分解される生分解性を持つものもあります。その中でもトウモロコシなどのでんぷんを原料としたPLA(ポリ乳酸)繊維があり、乳酸菌による乳酸発酵を行ってできる乳酸を重合してポリ乳酸とし、それを繊維化することでできるそうです3。トウモロコシ繊維とも呼ばれ、使用後廃棄しても土の中や水の中の微生物の栄養源となり、最終的には水と二酸化炭素に分解され、大量に廃棄されている繊維製品の廃棄物処理問題の解決にもなると期待されています4

イタリア・シチリア島で生まれたOrange Fiberという繊維も開発されています。シチリア島では毎年70万トンにもおよぶオレンジの皮や種が廃棄されることから、オレンジの皮からセルロース繊維を抽出して、シルクのような繊維を開発したそうです5。このOrange FiberはH&Mのサステナブルな素材を使ったライン「Conscious Exclusive 2019」に使われています6

使われなくなった漁網、捨てられたカーペット、廃棄されたナイロン、埋め立て地に残されているプラスチックもAquafil社の独自の製法によりECONYL®繊維という再生ナイロン繊維に変えられるそうです。この繊維は品質低下や劣化がない上に、何度も再生させることができる繊維として注目されています7。それ以外にも製造プロセスにおいて、石油を7万バレル8節約でき、二酸化炭素の排出も57,100トン抑えられるそうです9。この繊維はステラ マッカートニーやプラダ等の数多くのブランドで採用されています。またステラ マッカートニーは2020年までにバージン・ナイロンの使用を廃止することを目標10に掲げており、プラダは2021年末までに全てのナイロンバッグをECONYL®に変えることを公約に掲げています11

アディダスは漁網やペットボトルなどを回収し、こういったプラスチック廃棄物から抽出したPETをリサイクルしています。この方法で得られたリサイクルポリエステルを使用することで、未使用ポリエステルに比べて環境負荷を20~60%削減していると報告しています12。アディダスは洗濯によるポリエステル素材の影響にも言及し、まとめ洗い、冷水の使用、自然乾燥の大切さにも触れています13

和興という日本の会社も和紙の繊維を活用し、「和紙のふく」という衣類を製品化しています。原料となるマニラ麻の栽培には農薬がほとんど使われず、衣類も土に埋めてから約3ヶ月で微生物による生分解が始まり、約半年後には土に戻ることが確認されているといいます14。機能性にも優れ、吸湿性と保温性の両方を持ち、和紙の繊維が持つ優れた抗菌性により、臭いの原因になる雑菌の繁殖を抑えるそうです15

このようにファッション業界は急速にサステナビリティ素材に移行するため繊維開発を行っています。次々とファッションブランドがサステナビリティを重視していくことを表明する中で、サステナブルな繊維開発も加速化していることがわかります。しかし、このような新しい繊維開発がなされ、生産や消費に関する環境負荷についての言及は増えてきているものの、その繊維を洗濯した時の環境負荷についての議論は、まだまだ少ないようです。衣類を洗濯した時の環境への影響というのも、切っても切り離せない点ではないかと思います。生産や消費のみならず、使用方法やそのプロセスに関する議論もさらに進めていく必要があると思います。 (第22稿へ続く。)