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 ■vol.22 ファッション業界で進むトレーサビリティ

(キーワード:衣服、繊維開発、ファッション、サステナビリティ)


トレーサビリティとは一つの製品の生産・製造から流通、消費・廃棄といった全ての段階で追跡ができることを意味します。顔の見えるものづくりとも言われ、食品業界では野菜や肉の生産者の顔が見えるようになったりするなど、既に取り組みが始まっているようです。一方、ファッション業界はサプライチェーンが複雑で、一つの製品を生産するのに複数の会社が関わることがあるなど、トレーサビリティの確保が難しいと言われています。ファッション業界の透明化を促進する団体、Fashion Revolutionによる報告書「Fashion Transparency Index 2020」によると加盟している250の企業のうち、トレーサビリティが確保されているのは16%にとどまるとのことで、その割合はまだ低く、サプライチェーン全体で製品のライフサイクルを追跡することの難しさが表れています1

サステナブルな素材の調達という点では、レーヨン、リヨセルなどの木材から取り出したセルロースを使用する繊維では、原生林や消滅の危機にある森林からは調達をせずに、FSC(森林管理協議会)などの森林認証のある原料を選ぶ動きが始まっているようです2。H&Mは2025年末までに製品に使用するセルロース繊維をFSC認証林から優先的に調達を行うと宣言し3、グッチもFSC認証林からのセルロースの調達を拡大し、また2025年までに原材料のトレーサビリティを100%達成することを目標に掲げています4。ステラ マッカートニーもFSCに認証されたスウェーデンの森林から作られたビスコース(レーヨン)を調達し、製造工程においてトレーサビリティを確保しています5

またステラ マッカートニーは、レーヨン製造の環境影響データがないことに気づき、セルロース繊維の原材料10種類の環境負荷をライフサイクルアセスメント(LCA)で評価し、研究成果をまとめています。この研究では国際的に認められた科学的方法論に基づき、特定の原生林、陸水、淡水生態系を評価し、10種類の原材料の環境負荷を調べています6。この研究結果に基づき、リサイクルされた次世代のセルロース繊維の開発支援も実施しているそうです7

日本のファッション業界においても取り組みが始まっています。伊藤忠商事が開発するRENUと呼ばれる再生ポリエステルを活用した素材ではトレーサビリティにこだわり、国際的な認証機関から原料の出自やリサイクル含有物などを保証するGRS(Global Recycled Standard)認証を取得しているそうです8。またファーストリテイリングは2025年末までにサステナブルなコットン9の調達比率を100%にすることを目指すとしています10。セルロース繊維においても消滅の危機にある森林や絶滅危惧種の生息地への影響、違法伐採への関与、先住民の権利侵害などの可能性が懸念されるとし、第三者評価に基づく推奨工場からの調達をサプライヤーに求める取り組みを進めていると報告しています11

複雑なサプライチェーンを持つファッション業界においてトレーサビリティを確保するために新しい技術も開発されているようです。インド発のテキスタイルジェネシス(TEXTILEGENESIS)は、あらゆる繊維を追跡できるファイバーコインズ(Fibercoins)を開発したそうです12。ファイバーコインズはブロックチェーンの技術を活用し、繊維の製造から販売までの過程を追跡でき、素材ごとの独自のIDを発行するとのことで有力テキスタイルメーカーから注目を集めているそうです13

2020年8月に繊維専門商社の豊島株式会社が実施したアンケートでは、全年代を通して約74%が環境に配慮したファッションを取り入れたいと考えていることがわかったと報告しています14。またサステナブルな素材としてはオーガニックコットンの認知度が一番高かったそうで、まだまだ他のサステナブルな素材の認知度はあまり高くないようです15

製品の製造や販売だけでなく、衣類による環境負荷を全体的に削減していくには購入者による使用状況や製品の廃棄に関する状況も重要になってくると思います。衣類を購入した後必要になる洗濯やメンテナンスの仕方、廃棄しないで済む活用方法など衣類のライフサイクルを包括的に捉え、情報提供していくことが求められるのではないかと思います。