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 ■vol.23 プラネタリー・バウンダリーを意識して

(キーワード:プラネタリー・バウンダリー、グローバル・コモンズ、洗濯)


2020年も残すところわずかとなりました。本ブログも試行錯誤を重ねながら1年間洗濯に関するトピックについて様々な側面から書いてきました。洗濯による環境への影響としてマイクロプラスチックやマイクロファイバーの流出、洗濯によるエネルギーや水資源の使用について、また洗濯機や洗剤が歴史を通してどのように開発されてきたかということについても取り上げました。洗濯する対象である衣類と環境問題についても取り上げ、最近のサステナブルな繊維開発や衣類の役割を考える服育についても取り上げました。また持続可能な消費やライフサイクルアセスメントというコンセプトについても取り上げ、様々なモノの消費において原材料や製造、配送から消費、廃棄というサイクル全体の環境負荷を考えることの必要性についても取り上げてきました。

本ブログを執筆する中で洗濯というトピックを砕き、様々な側面から地球資源をどのように使っているのか考えていく中で、プラネタリー・バウンダリーを意識して行動することの重要性を実感しました。プラネタリー・バウンダリーは地球の限界と訳され、2009年にヨハン・ロックストローム博士を中心とした国際的な科学者グループが9つのプラネタリー・バウンダリー(気候変動、海洋酸性化、成層圏オゾンの破壊、窒素とリンの循環、グローバルな淡水利用、土地利用変化、生物多様性の損失、大気エアロゾルの負荷、化学物質による汚染1)を特定しました。このプラネタリー・バウンダリーは、「湖沼や森林の生物群や大規模な氷床に至る諸生態系が変化に抗する回復力がなくなると、突然に転換点(Tipping points)を超え、ある均衡状態から別の均衡状態に不可逆的に移行するという30年以上にわたる実証的な研究に基づいている2」概念で、人類の繁栄に必要不可欠である9つのプロセスにおいて転換点を超えてしまうと、地球システムが元の状態に戻ることがなくなってしまい、社会・経済を危機にさらすと言われています。

現在、「気候変動」においては既に二酸化炭素濃度の限界値を超え、安全領域のプラネタリー・バウンダリーを超え不安定な領域にさしかかっているそうです3。また「土地利用の変化」、「生物圏の一体性損失(生物多様性の喪失と種の絶滅)」も安全領域を超え、特に「生物圏の一体性損失」では不安定な領域に及んでいると報告されています4。ヨハン・ロックストローム博士は「地球や世界が不安定になるのを避けるために、私たちは地球の限界を知るだけでなく、その境界内で発展する必要がある」と言っています5。世界が温暖化を2度未満に抑えることができれば地球はまだ管理可能な状態に保たれ、地球が人類に対して「友好的」でいてくれるだろうとする一方で、2050年に100億人の人口を養うためには、持続可能な方法で食料システムを構築し炭素吸収源にする必要があるとしています 。

画像1
(参照:環境省 平成29年版 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書)


東京大学未来ビジョン研究センターは2020年8月1日にグローバル・コモンズ・センターを設立しています。グローバル・コモンズとは地球という人類の共有財産のことを指し、本センターはその責任ある管理(Global Commons Stewardship) に関し国際的に共有される知的枠組みの構築を進める目的で設立されています。設立に際し、20世紀半ば以降、人類は地球に多大な負荷をかけ続け、プラネタリー・バウンダリーを様々な分野で踏み越えてきたことを指摘し、このままでは間もなく地球環境は大きくバランスを崩し、人類社会が危機に瀕すると記しています7。プラネタリー・バウンダリーを意識し、グローバル・コモンズを守る方法を急速に見つける必要があり、行動することが必要であるとしています8

「持続可能な世界へ発想を転換するには一世代は必要であり、私たちはすでに出遅れている。あと30年も経つと、もう手遅れになる。(中略)地球以上に価値のあるものはない。私たちの世界はひとえに地球に依存しているのだ。9

このことを意識して、一人一人が日々の生活の中で地球資源を無駄にせず大切に使うという意識をしていく必要があると思います。日々の「洗う」という行動においてどういう環境負荷が生まれていて、それをいかに減らせるのか、本研究会で情報提供していくとともに、私自身も日々考えながら、次世代にとっても「友好的な」地球を残せるように行動に移していこうと思います。皆さんも今年の生活を振り返り、プラネタリー・バウンダリーを超えないようするために日々の生活で変えられるところはないかどうか、ぜひ考えを巡らせてみて下さい。